奈良の将来ビジョンをつくるフォーラム「第2回複合領域分科会」(2011年8月27日)の概要
(文責)座長:村田 武一郎
1.はじめに各地域においては、個別的な分野だけでは、解決できない課題が多くなっている。防災・環境・エネルギーも、そうした重要課題である。
2.複合領域の現状と課題2-1.これからの安全都市・環境共生都市づくり村田 武一郎(奈良県立大学教授)
(1)阪神・淡路大震災からの教訓を踏まえた安全都市づくりの課題
ヒューマンレベルでは、耐震(免震)・耐火設計、地盤強度の強い場所の選定や軟弱地盤の改良、ライフライン引込みにあたっての境界上での強度・ゆとりの確保が、コミュニティレベルでは、オープンスペースの確保(公園、街路・街路樹、小河川など)、耐震(免震)・耐火構造の中層建築物の配置、当面の自活を可能とする1/3自立型エネルギー等システム、コミュニティ活動の育成が必要である。都市レベルでは、土地利用の再編、鉄道・道路の強度向上、拠点施設の信頼性確保、電気・ガス等ライフラインの階層別必要強度の確保と緊急時対策の充実、最悪シナリオと対応策の整備、防災・安全に関する教育・学習の徹底が必要となる。都市圏レベルでは、多核ネットワーク型・ラダー構造型の都市圏構造への発展、局所的集中箇所を回避する新たな鉄道・道路の整備が望まれる。
(2)自律環境都市づくり
都市は、利便性や経済的な豊かさのみを優先しすぎたために失ってしまった様々な要素、即ち、自然・生物との共生関係、伝統的な生活様式や文化、地域の個性や地域特有のアメニティなどを見つめ直し、市民自身が新たな生活スタイルを創り出すことを含め、人々の生活の舞台としての豊かな都市環境を創造していく必要がある。
同時に、資源の有効活用・再活用および循環のための仕組みを早急に構築し、化石エネルギーをはじめとする外部からのインプット、大気環境・水環境への排出物や固形廃棄物などのアウトプットを極限まで減少させ、生物・生態系環境、地球環境に優しい都市を実現する必要がある。
2-2.温暖化の抑制と県民・農林業の連携大塚 徹(一般社団法人地域づくり支援機構理事・事務局長)
地球の平均気温は過去100年間で約1℃上昇している。これは産業革命以降に人類が排出した二酸化炭素を主とする温室効果ガスの増加が原因である。我が国も「京都議定書」(1997年)に従い、温室効果ガスの削減に努力してきたが、成果はほとんど挙げられていない。奈良県においても同様で、県および奈良県地球温暖化防止活動推進センターが中心になって温暖化防止に努めているが、無関心層へのアプローチに苦戦している。原発事故を契機にようやく省エネ・節電の機運が高まった程度である。
本フォーラムにおいては、地域づくりが目的であっても、結果的に温暖化防止につながるような提案が数多くなされている。温暖化防止活動(省エネ、新エネ開発、森林整備)の裾野を広げていくためには、環境問題に取り組むNPO等と、地域づくりを進める団体等の、異分野のNPO同士が“民?民共働”することが有効である。
2-3.住民参加の地域エネルギー政策永冨 聡(浦和大学講師)
2011年3月の東京電力福島第一原子力発電所事故の発生により、これまでの電力供給政策の継続が困難になるなか、小規模分散かつ住民参加が可能な再生可能エネルギーに期待が集まっている。奈良は、バイオマス燃料が獲得しやすく、また、耕作放棄地面積が広いことなどから、再生可能エネルギー発電設備の設置用地を確保しやすい地域と考えられる。こうしたなか、北海道グリーンファンドやおひさまファンドなど、住民からの出資を募り、再生可能エネルギー発電設備の導入を進める「市民共同発電所」が全国的に広がりつつあり、奈良でもこうしたスキームをとり入れていくことが有効と考えられる。また、住民がまとまって自ら再生可能エネルギー発電設備を所有し、造り出した電力を自らの住まう地域で使う“エネルギーの地産地消”に向けて、地域での電力需給の調整・制御を行う社会実験、再生可能エネルギー拡大の制度的障壁の解消、再生可能エネルギー拡大に協力的な民間企業の活用などにも積極的に取り組んでいくことが望まれる。
3.総合討論下記のような議論・提案があった。
<防災>
奈良県は、過去に震度6以上の地震に見舞われていないが、阪神・淡路大震災、東日本大震災からわかる最悪シナリオを想定し、防災計画の検証・改訂を行う必要がある。また、東南海地震、上町断層帯地震などにより被災する近隣府県の復旧・復興支援を含めた防災計画とすることが望まれる。さらに、県レベルの防災計画と市町村レベルの防災計画を連動させることはもとより、災害時の情報の集約・管理・発信、ヘリコプターの活用などについて、県が中核の役割を果たすことが必要である。なお、災害時における現場への権限委譲についても、十分に検討されることが望ましい。
災害時の避難について高齢者が不安を感じていることが報告されており、住民自身が最悪のケースにどのように対処するのかの意識をもつためにも、住民による地域防災計画の検証、住民参加の地域防災計画づくりが必要である。一方、コミュニティにおける日常的なつきあいが減災に結びつくことから、コミュニティ機能の育成・強化が重要である。
<環境・エネルギー>
シャープ天理研究所、大和ハウス総合技術研究所(平城山)などでは、スマートグリッドの研究を進めており、奈良県が産学官の連携による自然エネルギー利用実証研究拠点になることが望まれる。
奈良県の強みである森林資源、遊休農地などを活かし、自然エネルギー活用を進めるために、「奈良県地域エネルギー開発基金」を設置し、県民の資金参加と思いの具体化に資することが望まれる。
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次回予告
第3回複合領域分科会を下記のとおり開催いたします。ぜひ、ご参加ください。
日時:9月17日(土)14:00?17:30
会場:奈良県立大学3号館2階ホール
内容:複合領域における政策提案(案)<詳細は案内チラシでご確認ください>