奈良の将来ビジョンをつくるフォーラム「第4回総合フォーラム」(2011年10月1日)の概要
(文責)実行委員長:村田 武一郎
これまでの活動を振り返った後、教育分科会、農林業と食料分科会から検討状況の報告を行い、また、医療・福祉分科会、複合領域分科会から政策提案(案)の紹介を行った。その後、展示を介しての交流を行い、後半の総合討論では、参加者を交えて議論を深めた。
1.教育分科会の検討状況の報告(一部を抜粋)
1 日本の教育の持つ基本的な問題を明らかにすることから議論を始め、その後で、奈良県の特殊な事情に基づく個別の問題を取り扱うこととした。また、議論を円滑に進めるため参加者間で共通の理解を得ることを重視し、テーマを決めず教育のかかえる一般的な問題から議論を始めることとした。
2 「学ぶこと(勉強すること)」は必ずしも良い成績を上げるためではなく、世界を知ることであり、生きる力を得ることである。
3 特に小学校や中学校で問題となっている「学級崩壊的な授業そのものが成り立たない(成り立ちにくい)」状況を生み出す背景としては、教師を尊敬しない世の中の風潮の拡がりとそれにともなう教師を尊敬しない生徒の増加、生徒に尊敬される教師の減少などの問題も考えられるであろう。さらに、本来は家庭で行われるべき子どものしつけが上手くなされていないため、子どものしつけまでが学校に押しつけられる側面もある。そのため、教師の負担が大きく時間的余裕がなくなり、教育に割く時間が制限され、良い教育を行うことが困難となっていることも考えられる。
4 今の教育現場には多くの問題が噴出している。そのことが子どもたち自身を苦しめ、それを教育する立場の教員を苦しめているのは事実であろう。
5 これまでに出た多くの意見を参考に、さらに幅広く「今の教育のかかえる問題」と「その教育の持つ問題点の解消法」について議論し、できるだけ具体的な方策の提言を目指したいと考えている。
2.農林業と食料分科会の検討状況の報告
(1)農業
1 奈良県の農業行政は、農業・農村の未来をどのように想定し、どのような将来像を描いているのか、方向性が見えて来ない。
2 昨今の我が国をめぐる国際的な経済情勢や奈良県の農林水産業の実態・実情を踏まえた上での基本的な考え方がなく、長期的展望に立った政策・施策がほとんど見られない。
3行政組織の内部で、絶えず意思疎通を図って情報を共有化し、関係各課が連携しながら政策目標に向って施策を総合的に推進するシステムが全く機能していない。
4 当面する課題解決のための対策・施策が網羅的に実施されているが、ほとんどが国の紐付きあるいは補助事業であり、奈良県の実態・実情に合わず効果が上がっていないため、県独自のきめ細かな特色のある対策・施策が求められる。
5 県農業の再活性化のためには、FTAなど貿易自由化を想定して水田農業の抜本的な改革と農業経営の
6次産業化を進めることが急務である。そのために、農業者をはじめ関係団体・機関の意識改革が重要で
ある。
6 かつて全国をリードした農業は、奈良県の自然条件や当時の社会的条件に的確に対応した品目と先進的な生産技術があって成立していたが、今では農業政策における技術の位置づけが不明確になっている。
7 水田農業については、共通の水利系統を有する1?数集落を単位として効率的な稲作経営を行いながら、併せて水田畑作(野菜・花きなど)経営との土地利用調整や農業用水等の資源管理をも担う集落営農組織(株式会社等の経営体)の設立を促進する。
8 安全・安心・新鮮な農産物生産の奨励と大和野菜など戦略品目のブランド化対策を強力に推進するとともに、大都市近郊で県内消費も見込める立地を生かした小規模で高収益を実現する技術体系・経営指標の確立を図る。
9 県内農産物を取り扱う販売店やレストランの拡大、消費者へのPRなど県内需要を喚起するための対策を強化する。また、柿などの高品質な果物については海外の富裕層向けに輸出する。
10 2年前に農産物のマーケティングを所管する課が農林部に新設されたが、その取り組みはまだまだ不十分であり、今後、効果的な販売戦略と実行が期待される。
11 西瓜種子やダリア球根など種苗生産は奈良県の得意分野でもあるので、野菜や花き等の有用遺伝子の集積と新しい品目・品種の開発・研究を充実強化するとともに、F1種子等の輸出も視野に種苗産業の振興を図って我が国における「種苗ヴァレー」を目指す。
12 晴耕雨読の余暇や高齢者の生甲斐づくり、子供たちの情操教育等に農業の癒し機能を活用するために、都市生活者等が農地を利用し易い仕組みを検討することが必要だ。
(2)森林・林業・木材産業
1 一山で4度儲ける林業プランを作成し、1)間伐材を売って儲ける、2)グリーンツーリズムを誘致し儲ける、3)森林が吸収したCO2を売って儲ける、4)木を売って儲ける林業を目指してはどうか。
2 大規模林業経営者の中から将来を見据えた新しい取り組みが芽生えており、これが大きな広がりとなって国際競争に耐えうる低コスト林業が定着するよう県の積極的な支援が必要だ。
3 地籍調査を促進して土地台帳の近代化を進め、小規模所有者の森林経営権を森林組合等との間で貸借し易い環境を早急に整えるとともに、経営権貸借に応じるよう小規模所有者への働きかけを強化することが大切だ。
4 奈良県産材を使用した住宅建築を促すため、助成制度を創設するなど「奈良県産材で家をつくる」一大県民運動を展開してはどうか。まずは、県職員やその身内は率先して県産材使用の意識を持つべきでは…。
5 県産材の使用を促進するために県民運動をおこす場合、環境NPO団体と協働して行うことが大切である。 また、カーボンオフセットにしっかりと取り組んで行くことも必要だ。
6 世代を越えて住み続ける木造の家を、年数を懸けて建てるクラブ的な組織を立ち上げていけば、高品質な県産材の使用が拡大するのでは…。また、国宝等の建造物を修復するための木材を供給することも考えるべきだ。
7 森林環境税を投入して整備した森林は、エコツーリズムなど広く県民一般が利益・恩恵を享受できるような利活用を制度化するべきだ。
8 県は、新たに条例を制定し、森林・林業・木材産業の基本的な政策理念を明確にしたうえで振興施策を展開することにしており、今後、大いに成果をあげるよう期待したい。
3.医療・福祉分科会の政策提案(案)の紹介
施策の目標を「ライフサイクルを通じて安心できる・満足できる医療・福祉サービスを提供する奈良県を創る」とし、下記の4つの方針と17項目についての提案(案)を紹介した。
方針-1.ライフサイクルと医療・福祉サービスの体系化を図る。
1 ライフサイクルと医療・福祉サービスの体系化
2 医療受給満足度調査の実施
3 医療計画への住民・県民参加
4 診療記録の共通化・共有化と迅速な治療および患者負担の軽減
5 有能で思いやりがある看護師・介護福祉士の確保
6 コミュニティの人的つながりを促進する「コミュニティ・カフェ」づくりの支援
7 地域で暮らし続けられる社会の仕組みづくり
8 NPO・ボランティア等による子育て・障がい者・高齢者生活サポート活動の支援
方針-2.県民のコンセンサスを得て、新しい医療体制の整備を行う。
1 県民に信頼される中核医療機関の整備
2 既存の民間病院・診療所との協力関係づくり
3 特殊な医療への対応を行う最先端の医療機関とのネットワークの構築
4 プライマリーケアの充実(いつでも診てくれ、相談に乗ってくれる医師の育成)
5 複数の専門診療所のネットワーク形成とネットワーク拠点の立地に対する支援
6 地域にとって有用なクリニックヤードの形成
方針-3.中核医療機関を中心としたまちづくりを行う。
中核医療機関を中心としたまちづくり
方針-4.職場・地域・自然が連携した健康開発システムづくりを行う。
1 職場におけるストレス・疲労調査の実施と対応策の実行
2 職場・地域・自然が連携した健康開発システムづくり
4.複合領域分科会の政策提案(案)
施策の目標を「複合領域にわたる課題に対応し、総合的振興を図る」とし、下記の4つの方針と13項目についての提案(案)を紹介した。
方針-1.域内消費拡大のための総合的対策を実行する
1 域内生産・消費拡大対策の総合的実施
2 集落・まち単位での6次産業の開発・振興
3 名産品の開発
方針-2.安全な都市・地域をつくる
1 最悪を想定した広範な防災計画の検証・改訂
2 住民参加の地域防災計画づくりとコミュニティ機能の育成・強化
方針-3.自律環境都市・地域をつくる
1 低炭素・循環型社会のショーケースとしての奈良県づくり
2 エネルギーの地産地消に向けた県民発電所の開発・設置
3 低炭素・循環型社会づくりに向けた異分野のNPO等の「民・民共働」の促進
4 農林畜産業・市民連携による地域循環システムの構築
方針-4.奈良の資源を評価・再編集し発展可能性を高める
1 領域を超えて結びつきを深める拠点を創る
2 歴史文化資源の幅広い活用
3 歴史的文化財の商業コンテンツとしての有効利用
4 ふるさとの掘り起し・人と人との交流の拡大・活力の醸成
5.総合討論
上記に関連し、活発な意見交換が行われた。以下に、いくつかを紹介する。
1 奈良の子どもたちの規範意識の欠如を直していく教育政策を検討する必要がある。ただし、子どもの立場から教育を考えることも重要である。
2 学校での教育だけではなく、「自然の中で」「地域の人たちとともに」が重要である。また、ものづくり体験教育も含め、日常の中に非日常性をもたせ、興味を拡大し、子どもたちの能力を引き出す教育が望まれる。さらに、日本人としての歴史・文化教育も必要である。この時、地域の人々が教育現場にボランティアとして参加し、教育の一端を担っていく仕組みの充実が望まれる。一方で、親から自立できない大人の問題がある。自立できるように、学校・地域で教育しなければならない。
3 国政レベルの減反政策は、奈良県にはそぐわない。農業者の意欲を削ぐ政策から奈良県独自の農業振興策へと転換する必要がある。
4 食に関するイベントがいくつも行われるようになっているが、個別バラバラであり、奈良の総合力を発揮できるような協力体制づくりが望まれる。なお、この時、協力体制づくりを支援するコーディネータが重要である。
5 看護師・介護士の確保のみならず、有能な医師の確保を進めていくことが必要である。
6 奈良は、観光に関する情報発信力に欠けており、情報発信の工夫が必要である。また、奈良のものを置きたいという店舗が、他府県に少ないといことも奈良の問題点として挙げられる。
※総合討論の内容を勘案し、各分科会においてとりまとめ・修正を行い、奈良の将来ビジョン(第2次提案)の作成を行っていくこととなった。